[たいせつなバディシステム]
水中では、不完全にしか働かなくなる感覚機能を補うために、人間はお得意の器具や道具をいろいろ作りました。水中時計、深度計、コンパス、水中筆記具、照明器具、ダイビングコンピュターなどなど。しかし、これらはあくまでも器具、道具にすぎません。計器はひつようなときに誤りなく読み取ってはじめて役に立つのであって、うっかり見るのを忘れた、見誤ったというのではなんの役にも立ちません。なによりたいせつなのは潜水の基本動作で、その一つが「バディシステム」(連れ添い潜水)です。
バディ(BUDDY)とは仲間の意ですが、潜水におけるバディとは、単に時間的、空間的に一緒に潜った仲間ということでなく、お互いの不完全な感覚(とくに注意力)を補い合い、判断を客観視し合い、行動を豊かにし合うツレアイ、おおげさにいえば、命を預けあった伴侶ということがいえます。陸上の世界でも、長い人生を送るには家族や親友、恋人がいなくては淋しい限りですが、その人たちがいないと生命にかかわるというほどではありません。ところが、水中の世界では、ほんのひとときの単独行動でも、身の破滅につながることもあるのです。感覚と計器が狂って狂っていた場合に、修正してくれる存在がなくなるためです。
この意味で水中におけるツレアイとは、人生における親や妻、夫よりもはるかにたいせつな存在といえましょう。
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