ウエットスーツ

【なぜ、ウエットスーツは温かいのか】

 スノーケリングを含めたダイビング活動には、ウエットスーツは必需品です。自分の身体に合ったものでなくてはなりません。きつくても、ゆるくても快適な活動はできません。「何はなくとも、ウエットスーツ」です。

ウエットスーツは、ピッタリと肌を直接覆うものですが、ウエットスーツを着て水に入ると、ウエットスーツと肌の間に水が侵入して肌を濡らします。これでウエットスーツといわれるのです。

 中に水が侵入したら冷たいじゃないかと思われるのは当然で、水に入った瞬間は確かに冷たいです。ウエットスーツは肌にピッタリ付いているので、入る水は多くなく薄い水膜ができるくらいの量です。この水膜は体温によってすぐに暖められ全身を覆います。ちょうど体温と同じ水に入っている状態になるわけです。セーターは繊維に空気を貯めるので、空気を着ることで身体を寒さから守りますが、ウエットスーツは体温と同じ水を着る、ということで温かさを保ちます。

 ウエットスーツをなぜ肌にピッタリするように作るかというと、この水膜を逃がさないためだからです。ウエットスーツがブカブカだったら、せっかく温まった水が外に出してしまい元もこもありません。男性で32箇所、女性で35箇所も身体のサイズを採寸して作るのはこのためです。

 もうひとつ、ウエットスーツの基本的な素材(ゴム地)は、クロロプレンゴムのスポンジ(発泡体)です。通常ゴムスポンジは気泡(セル)の作り方から、連続気泡と独立気泡の二種類があります。
 台所で使われるようなスポンジは、水を含んだり絞り出したりできます。これは気泡が連続しているからです(連続気泡)。

 ウエットスーツのスポンジは、水を含むことはありません。すべての気泡がそれぞれ独立して作られているからです(独立気泡)。空気は良質の断熱材ですから、ウエットスーツはこの無数の独立気泡の中にある空気によっても保温力を保つのです。

 ここで、覚えておく、大切なことがあります。ウエットスーツには無数の独立気泡が詰まっていますから、潜っていくとつまり圧力がかかると、気泡の体積は減少します。気泡の体積が減少するということは、潜っている本人全体の体積が減少するということになるので、浮力も減少し沈み気味になっていきます。深く潜れば潜るほど、ウエットスーツの浮力はなくなっていきます。むろん保温力もなくなっていきます。

【ウエットスーツのもう一つの役目】

 それは、種々の環境や外敵から身体や皮膚を守ることです。ダイビングに適した海域は岩礁帯やサンゴ礁帯です。これらの場所は、生物の生育に最適でさまざまな生き物がいます。不用意に触れてしまうと、炎症を起こすもの(シロガヤ、クロガヤ、火炎サンゴなど)もいます。潮間帯の岩場にはフジツボなどが、濡れて柔らかくなった肌をすぐ切ります。波の荒い磯の出入りでは岩にぶつけられたりします。ウエットスーツは、このような状況から身体や皮膚を守ってくれます。

 

【ウエットスーツの種類:素材から】
 ウエットスーツには、ゴム地だけの素材で作られたものと、ゴム地の片面あるいは両面にジャージを貼ったものがあります。前者をスキンのスーツ、後者をジャージのスーツといっています。元来、ウエットスーツはスキンだけでしたが、着たり脱いだりするときに、強く引張ったり爪を立てたりすると、破けてしまうので注意しなければなりません。このスキンの強度を補完するために、ジャージを貼りました。これによってウエットスーツの強度は数倍あがったほか、繊維なので染色しやすく色も豊富でファッション性も向上しました。

[ゴム地の厚さ]
 
ウエットスーツの保温力を決定づけるのは、ゴム地の厚さです。薄いものと厚いものでは、詰まっている気泡の数すなわち空気量が違いますので、厚い方が温かいです。ゴム地の厚さは、製造規格として種々ありますが、ダイビングに使われるウエットスーツの厚さとしては、3mm、5mm、6mmが主流です。

[スキンとジャージ]
 同じゴム地の厚さなら、スキンでもジャージでも水中の保温力はさほど変わりません。しかし、水から出たときは、スキンは水はけがよくすぐに乾くので気化熱による熱損失が少ない、ジャージは繊維に水を含んでしまうので水はけも悪く乾きにくいので熱損失が大きい、という性質があります。

[スキンのウエットスーツ]
 一般的に使われるのは、両面フラットスキンを呼ばれるもので、表と裏の面がツルツルしています。このウエットスーツは、滑りが悪くて着にくいので、シッカロールをまぶしたり、水に入ったり、シャワーしたりして着ます。最近、輻射熱を利用して保温力を高め、また着やすくするために、肌側になる面に微細なアルミニュウムの粒子で表面加工(サーモとかメタルとかいう)をしたものがあります。

[ジャージのウエットスーツ]
 スタンダードジャージといわれている繊維素材を、片面にほどこしたものを片面ジャージ、両面にほどこしたものを両面ジャージと呼んでいます。
・ 片面ジャージは、ジャージ面を表にするか裏にするかは使う人の好みで、泳ぐ際の摩擦を少なくしたい人は、表をスキン裏をジャージというようにしています。
・ 両面ジャージは一般的に、片面は黒で、もう一方には様々な色のジャージが貼ってあり、好みの色の組合でカラーコーディネイトも楽しめます。
 ジャージを肌側にした場合、身体もウエットスーツも乾いていれば着やすいですが、濡れているとかえって着にくくなります。これを解消するために、起毛をしたり伸縮性を変えたりして、着やすくしたジャージのスーツも作られています。

[表のジャージ]
 ファッション性を良くするために、表に光沢のあるジャージを貼った素材で、オペロンとかライクラとかいわれるジャージを貼ってあるものです。

[ウエットスーツの厚さと表面加工の一般的な組み合わせ]
 参考までに、レジャーやスポーツダイビングで使われる一般的なウエットスーツの厚さと表面加工の組合せを表にしました。メーカーによって、素材の呼び方などが違いますので、ダイビング専門店でよく説明を受けて購入することが大切です。

 

厚さ

表面加工

3mm

片面スキン・片面ジャージ

両面ジャージ

片面ジャージ・片面サーモあるいはメタル

5mm

両面スキン(最近では、片面サーモあるいはメタルのものが多い)

片面スキン・片面ジャージ

両面ジャージ

片面ジャージ・片面サーモあるいはメタル

6.5mm

両面スキン

片面スキン・片面ジャージ


【ウエットスーツの種類:スタイルから】

 現在使われているポピュラーなスタイルです。ジャケットにはファスナーの無いカブリ形、丈を長くして股掛けを付けた形のものがあります。

 
【ウエットスーツ選びの目安】

 日本の海は地理的に亜寒帯、温帯、亜熱帯の気候帯があり、四季の季節的な変動もあります。暑がり寒がりといった個人的な条件もあります。さらに、ウエットスーツも衣服のひとつとすれば個々の好みもあり、素材、厚さ、スタイルの組合せは際限ありません。
 今、ウエットスーツメーカーが市場に供給し、多くのユーザーが使っているのが、厚さ5mmのもので、ウエットスーツの標準的な厚さになっています。

 5mmのものであっても、ワンピースとジャケット+ロングジョンとでは温かさも違います。寒いときは、フードを被り、ベストあるいはフードベストを重ね着しています。ウエットスーツ用のウンダーウエアーも発売されているので、これを利用するのもひとつの方法です。

 いずれにしろ、一着のウエットスーツですべてに対応することは無理なので、専門店やインストラクターや先輩にアドバイスを受けて購入するのが一番です。

 下の表は、伊豆半島の月別平均海水温(表層水温)を示したものです。海水温に適合する一般的なスーツを掲げましたので、目安の参考にしてください。暑がりの人、寒がりの人がいますのであくまでも参考です。

海水温(℃)

適合スーツ

 1

16

 ・ドライスーツ

 ・5mmジャケット+5mmロングジョン)&フードベスト

 ・6.5mmカブリ+6.5mmロングジョン

 2

15

 3

13

 4

15

 5

18

 ・5mmジャケット+5mmロングジョン&フード

 ・3.5mmor5mm長袖ワンピース+フードベスト

 6

19

 7

20

 8

22

 ・5mmワンピース

 ・3.5mmワンピース

 9

24

10

22

11

21

・5〜7月に同じ

12

18

沖縄および同等地域 

夏季3.5mm、冬季5mm

ミクロネシアおよび同等地域

フルシーズン3.5mm

【ウエットスーツを長持ちさせるには】

 次のことを励行して下さい。

@

洗う 

使用後、真水で内側外側ともよく洗い、塩分や砂や汚れを落としてください。
ひどい汚れは、中性洗剤を使ってください。
洗濯機で洗わないでください。

A乾燥する 

直射日光を避け風通しの良いところで、表裏ともに充分乾かしてください。
よく乾かさないと異臭がしたり、ジャージがはがれたりします。
乾燥機は、絶対に使わないでください。
B保管する
折りたたまないで、肩の幅広いハンガーに掛け、直射日光や蛍光灯などの光があたらないところに保管してください。
濡れたままビニール袋等の密閉された容器に入れたり、自動車のトランクルーム等の高温多湿のところに置くと、色あせや色移りの原因となります。
他の衣類といっしょにすると、色移りすることがあるので避けてください。 
 

【暑さに注意】

 炎天下や熱いところにいるだけでも、熱疲労や熱射病のなることがあります。暑い日熱いところで長時間ウエットスーツを着たままでいることは、熱の放散が妨げられて体調を悪くする原因になります。

 ウエットスーツを着るのは、慣れないうちは汗だくになります。そのうえ海に入るまで時間があると、潜るまえに熱で消耗してしまいます。ウエットスーツは、その日の気温や海に入るまでの時間など見計らって着るようにします。

 熱疲労、熱射病、日射病などを総じて熱中症といいます。体温調節を妨げない要因を取り除けば、重症の熱射病とか日射病にはなるおそれはないですが、暑い環境下での過剰な水分損失は熱疲労ばかりでなく、血液の粘度を高めスクーバダイビングの場合は、減圧症という障害の原因にもなります。スノーケリング、ダイビングでは水分補給が重要です。

 

【ざつがく事典】

ウエットスーツの歩み

 ウエットスーツ誕生の経緯は定かではありませんが、第二次世界大戦中に欧米の海軍によって、戦略的装備としてのスクーバと共に誕生したといわれます。
 そもそも潜水服は、ドライスーツ式でした。あの重装なヘルメット潜水のダイバーが着ている服です。スクーバがやっと日本に入ってきた頃は、ゴム引きの布(ゴム合羽)で作ったものを着ていましたが、今のような給気や排気の機構がなかったので、これで潜ると圧力によって潜水服がしぼられてスクイズを起こし、浮力の減少による動作性の悪さもあったとのことです。このようにスクイズ防止や動作性の改善という面から開発されたのがウエットスーツです。
 1960年には、国産のスポンジによるウエットスーツが開発され、伊豆大島の海女がこれを着てあわびを採ったのが最初といわれています。スクーバ愛好者ばかりでなく、特に、軽便なフーカー潜水や海女に急速に広がりました。ちょうど、ダッコちゃん人形が流行った時期と重なり海女も同じ黒装束になったので、古い海女、特に伊豆方面の海女たちはウエットスーツのことをダッコちゃんと呼んでいました。
 余談ですが、ウエットスーツを着れば長い時間海に入っていられます。必然的に漁獲量も増えました。漁師さんにとってはウエットスーツは大歓迎だったのですが、ウエットスーツを着て水中で息ができるものを使って潜るスクーバ愛好者たちの中には、水中銃で魚を、またアワビやサザエを採ってしまう人も現われました。これが猟師さんにとっては、インパクトが強かったのでしょう。その結果、猟師VSダイバーの対立も生まれ深まり、今のように平和にダイビングできる時代になるまでには曲折がありました。
 猟師VSダイバーの対立が和らぎ、レジャーやスポーツとしてのダイビングが盛んになるにつれて、ウエットスーツの強度やファッション性も追求され、1964年頃からスポンジの表面に繊維編物を貼ったジャージ仕様のウエットスーツも発売されました。1978年には、今日のレジャー用ウエットスーツとして最もポピュラーなポリウレタン繊維(一般的にライクラジャージと呼ばれている)を表面に貼り、襟、手足首、裾などの裁断面をパイピングした、より良いものが市場に出まわってくるようになりました。